北原帽子です。
前回から三回に分けて、「私たちが文章にしていくこと」と題して、手直しについてのコラムを書いています。
各回の内容は、以下のようなものです。
第一便
第二便
「状態」読み(今回はこちら)
第三便
今回は、文章がかたちをなすまでの手順にしぼって考えてみます。
手順といっても、「そんなの意識する必要あるのか」と思う方が大半かもしれません。ひととおり書いたあと、文章に対してどのような働きかけをしていくとよいのでしょう。
前回は、「行為」読みについてのはなしをしましたね。書きっぱなし文章の日常でのありかと、寝かすことの意味を知ってもらえればオーケーです。
第二便は、そのあとの段階「状態」読みについてです。「状態」読みとは、書いたものを読み返すこと。書きながら読むのではなく、読むことに集中する時間です。
とりあえず書いたけど、なんだかしっくりこない。求めるイメージと目の前の文面が違いすぎる。このギャップ、わたし自身も書くとき常に感じているものです。しかし不安はありません。それはなぜか。そういうものだと納得しているからです。文章はもともと書きあぐねるものなのです。修正して更新していく。なので心配いりません。対処法を知って、できるだけ楽な気持ちで書いたものと向き合えるようにしていきましょう。
そのコツはざっくりいうと、段取りを意識して、かならず「状態」読みをすることです。
具体的には「状態」読みで、
1.「振り返り」モードになれる仕掛けをつくる
2.「削り」の心理状態をうまく手に入れる
このふたつがポイントになってきます。それでは順を追って説明していきましょう。
〇「振り返り」モード
前回、寝かしについての説明をさせてもらいました。いっきに書いておしまいにしないということでしたね。いったん書くことをやめ、時間をおくだけで、振り返るモードを自分自身に演出することができます。つまり、二回に分けて推敲作業をすることになります。書きながらの推敲は「行為」読みで、読み返しての推敲は「状態」読みで、というぐあいに分けます。
このとき寝かしは「状態」読みへのきっかけ作り、リセット効果をもたらします。とくに本人リスクをかかえて文章と向き合っているときは、けして寝かしをはぶいてはいけません。
「本人リスク」は、今回のはなしのキーワードです。少々説明が必要かもしれませんね。自分で書いた文章を、自分以外のだれかに読んでもらえないことってありますよね(いや、ほとんどかも)。メールをはじめ、私たちが書く文章の多くは、他人の目を通さずにオモテに出ているのかもしれません。その場合のリスクを、わたしは便宜的に「本人リスク」とよんでいます。
この本人リスクがあると、たとえば文章に誤記があっても気づきにくいという不都合がうまれます。気づくためには、寝かせたうえで読み返す。寝かせると本人リスクは軽減されるからです。そして読み返すとなぜか書き直したくなるもんです。
〇「削り」の心理状態
振り返る仕掛けをつくったあと、どんなふうに手直ししていけばよいのでしょう。「状態」読みで推敲していくだけで、はたしてよいのか。最終的にはなによりも優先したいことがあります。
それは、文章の量を減らすこと。
つまり、いらないものは削る。この「削り」の心理状態の獲得を自分に課すことは、長さによってはかなりの手間と時間がかかってきます。書く意識と読む意識の両方が必要になるからです。しかしこれはやるだけ価値のある作業です。伝えたいことの輪郭がクリアになり、文章の品質が向上して、読み手に伝わるかたちになっていくからです。
むずかしいのはその段階の見極め。いつから削りの段階に入っているといえるのか。目安みたいなものはあるのか。削るところが見つからないときは、まだ頭は「行為」読みの段階を含んでいるのかもしれません。もう少し時間をおいてみましょう。
削り作業は、とくに何万字もの長めの文章にはたいへん効果的です。そして文章環境を変えてやるとよい。PC環境でしたらプリントアウトしてからおこないましょう。これらのことは、編集の現場がわたしにおしえてくれた、とても大切な教訓。多くは失敗から得られた教訓です。
以上、書いたあと文章にしていく段取りを説明してきました。
最後まで読んでくれてありがとうございます。次回は、デジタル環境で文章にしていくことを考えていきます。お楽しみに。
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