北原帽子の似たものどうし

昨日書いた文章、今日の目で読み返す。にがい発見を明日の糧に。

【望む/臨む】編集の現場から

・現状
これから起こる、これから始まるというイメージでこの2つは共通するところがある。世間的に「臨む」の存在感がうすい印象がある。編集の現場では、「望む」を「臨む」に直す場面が多い。


・理由
「望む」の意味に意志がふくまれているからか、「臨む」が流されてしまう。例えば「会見を望む」ということはあっても、「会見に望む」とはいわない。「会見に臨む」である。


・対処
「〜をのぞむ」なら「望む」、「〜にのぞむ」なら「臨む」と使い分けることができる。迷うのは水辺のときだけ。以下を参考に。


望む:遠くに見える
臨む:向いている、面している


海を望む城(海と城の距離が遠い)。海に臨む城(海と城は近い)。両方ともあり得る表現だから、わからなくなるのは当然でしょう。

 

 

 

*2019年1月22日、加筆修正しました

 

気づけなかった同音異義語: Kanji and Typos
 

 

【恐れ/虞】編集の現場から

●基本的な意味
恐れ:こわいと感じること
虞:良くないことがおきる可能性。心配


・現状
「オソレ」を可能性の意味で漢字をつかうときは、正確には「虞」とするべきである。しかし昨今あまり見かけない。「虞」の意味で、「恐れ」と書くことが常態化している。ここまでくると、社会的に定着しているといえるかもしれません。


・理由
つかわれないのは「虞」という漢字の画数が多いからか。よく耳にするものは、わたしたちは簡単なほうですまそうとするようです。


・対処
漢字にすることに抵抗がある人は、「〜のおそれがある」と、ひらがなにしてはどうでしょう。

 

 

 

*2019年1月21日、加筆修正しました

  

気づけなかった同音異義語: Kanji and Typos
 

 

【捕まえる/掴まえる】編集の現場から

●基本的な意味
捕まえる:手で押さえ、逃げないようにする
掴まえる:手でしっかりと持つ


・現状
「掴む」のときではなく、「掴まえる」のときに混同するのがポイント。「掴まえる」と書くべきところで「捕まえる」になっていることが多い。


▼例文
掴まえる:相手の後ろ襟あたりを掴まえたが、振りほどかれた
捕まえる:その後、けっきょく捕まえられていない


・理由
意味のかさなりが深いペアのひとつ。訓読みで他動詞どうしだと、対象の目的語のほうに関心がいきやすい。そのため、うっかりミスの可能性が高まる。


・対処
どちらともいえないこともあり、考えるとわからなくなるときも。そんなときはひらがなで書くという手もあります。

 

 

 

*2019年1月19日、加筆修正しました

 

気づけなかった同音異義語: Kanji and Typos
 

 

【別れる/分かれる】編集の現場から

●基本的な意味
別れる:一緒にいた人がはなれる、会わなくなる
分かれる:一つだったものが別々になる


・現状
「別れる/分かれる」での間違いの見過ごしは、実際は「別れた/分かれた」「別れて/分かれて」のかたちで発生しやすい。その中でもよくあるのは、「分かれた」「分かれて」と書くところを「別れた」「別れて」にしてしまうケース。


・理由
本質的な意味合いが同じなため、気づきにくいペア。訓読みの似たものどうしは、うっかりミス要注意。世間では「別れる」のほうが、ことばとしての存在感が優勢だといえそうだ。


・対処
書く行為から読む状態にうつると、すぐ気づく間違いのひとつでもある。だから、読み返すことは大切。直すときは、おくりがなの違いにも注意です。

 

 

 

*2019年1月18日、加筆修正しました

 

気づけなかった同音異義語: Kanji and Typos
 

 

【関わらず/拘らず】編集の現場から

●基本的な意味
関わらず:関係なしに
拘らず:悪い条件やあらかじめの行為があるのに反して(〜なのにそれでも)


・現状
拘らずの意味で、「〜にも関わらず」「〜に関わらず」という表現を、さまざまなメディアでよく目にする。わたしのなかで、本来は正しくないのに世間的にこれでよいと思われていることば、第一位。いつか当たり前のようにつかわれている気さえする安定感です。


・理由
ふだん耳にすることばは、書きことばになると簡単なものに置き換わりやすい。PCでの変換結果で、上記のような表現を良しとしている影響も多分にあるように思う。


▼例文
関わらず:他人といっさい関わらず暮らすことなどできない
拘らず:機械であるのにも拘らず、それは意志をもつ人間のようなふるまいを見せた


・対処
それではどうすべきか。ひとつに、「〜にもかかわらず」「〜にかかわらず」とひらがなにするやり方がある。漢字にするのなら、「拘らず」となる(送りがなにも注意)。PCやモバイルフォンで「かかわらず」と打つと、変換候補で最初に「関わらず」と出ないようにしてほしいものです。それだけで世の中から間違いがひとつ減るわけですからね。


ひらがなに直す
〜にも関わらず→〜にもかかわらず
〜に関わらず→〜にかかわらず


これは余談ですが、わたしにとってはカカワラズの表記方法はとても意識するところです。文章品質の面で、どんな媒体であっても編集過程で校正の目が通っているかどうかのバロメーターのひとつになっているからです。

 

 

 

*2019年1月17日、加筆修正しました

 

気づけなかった同音異義語: Kanji and Typos
 

 

【自任/自認】編集の現場から

●基本的な意味
自任:自分にはそれがふさわしいと思うこと
自認:自分がした行為を、自分自身で認めること


・現状
「自任している」(自任=自分がふさわしいと思う、自負している)と書くところを、「自認している」としているケースがとても多い。自認は、事実を自分が認めるという意味。本書に掲載したなかで、もっとも致死率が高いことばのペアだと思います。


・理由
この同音異義語ミスがまかり通っているのは、「辞任する」ということばの存在が影響しているのかもしれない。自任が辞任と似ているので、ポジティブな意味で自任はないだろうと思い込みやすいのかも。


・対処
ポジティブなときは「自任」(わたしに任せなさい)、ネガティブなときが「自認」(良くない行いをしたことを認める)と覚えておくとよい。編集の現場では、ポジティブな場合は自認を自任にするよう指摘しつつ、「自負」でもよいかもしれません、と他のことばへの置き換えを提案するときもあります。


▼例文
自任:彼は組織のリーダーを自任していた
自認:墓参りしたことで、彼はその罪深さを自認したのかもしれない
辞任:翌月、彼は大臣を辞任した

 

 

 

*2019年1月16日、加筆修正しました

 

気づけなかった同音異義語: Kanji and Typos